出生前診断について 院長コラム#005

2021.02.21 院長コラム

院長の吉冨です。

今回は出生前診断について誤解や批判を恐れず、私の意見を書こうと思います。
内容が濃いのですごく凝縮していますが、それでも少し長いかもしれません。また、できるだけ要点を書きましたので意図が伝わりにくいことがあるかもしれませんが、ご容赦ください。

 

そもそも出生前診断とは

出生前診断とは、妊娠中にお腹の中の赤ちゃんのことをより詳しく知るために行われる特別な検査のことです。現時点での日本の妊婦健診はお腹の中の赤ちゃんの詳細な検査を行う仕組みになっておらず、お母さんの健康を維持するものと位置づけられています。

つまり、誤解を恐れずに言えば、通常の妊婦健診では赤ちゃんのことは心拍があるかどうかの確認と推定体重以外何も見ていないと言っても過言ではないということです。

 

出生前診断の目的

では、出生前診断は何のために行うのかというと、お腹の中の赤ちゃんの状態を妊娠中に知っておくために行うのです。何らかの問題を持つ赤ちゃんが生まれてくる確率は全出生の約5%と言われています。その中には命の危険を伴うものから、命にかかわらないほんの少しのものまで含まれています。もし、お腹の中の赤ちゃんに問題が見つかれば、生まれてくる前に心の準備をしておくこともできますし、生まれてすぐに赤ちゃんの治療を行うことができる可能性が出てきます。

また、胎内で病気がわかっていなければ救命することが困難な病気もあります。病気の種類によってはお腹の中にいる赤ちゃんを生まれる前から治療できる(胎児治療)こともあります。さらに、プレネイタル・ビジットと言って、生まれる前に今後の治療方針や予後について、小児科の先生や外科の先生から説明を受けることも可能なのです。

 

出生前診断の落とし穴

しかし、何の考えもなしに出生前診断を行うことは私は勧めません。お腹の中の赤ちゃんの健康状態を知りたいと考えることはごく自然な考えだと思います。親として病気や障害のない子供を望むことは自然な感情だからです。それゆえに、もし赤ちゃんの予期せぬ問題が見つかった場合、とてつもない心理的負担がのしかかってくるため、事前に検査についての理解を深めておく必要があります。また、出生前診断で分かる赤ちゃんの病気は限られた一部の病気だけであり、出生前診断を受ければ必ず健康な赤ちゃんを産めるというわけではありません

 

倫理的な大問題

日本の法律では、お腹の中の赤ちゃんの病気を理由とした中絶は認められていません。しかし、経済的理由など両親の事情による中絶は認められています。妊娠22週未満で行われた出生前診断で赤ちゃんに何らかの問題が判明した場合に94%のカップルが産まないという選択をしているというデータがあります。出生前診断は良いことばかりではなく、中絶という命の選択につながりうるという大きな倫理的問題をはらんでいることを絶対に忘れてはならないと思います。そうはいっても、赤ちゃんの問題を見つけないことで、防げるはずだった障害や、守れるはずだった小さな命を放っておくことはできません。

 

日本の社会のこれから

倫理的に大きな問題を抱える出生前診断ですが、皆さんが不安に感じている原因は社会の受け入れ態勢やシステムにあるように思います。障害のある方々が安心して生活できる環境はまだまだ整っているとは言い難いからです。それゆえ、ゆがんだ恐怖心や無意識の差別につながっている可能性があるように思います。今後、日本の社会がこれらの問題を解決していければ、出生前診断の闇の部分は少し変わっていくのかもしれません。

 

出生前診断は赤ちゃんのお父さんと一緒に考えること

前述したように出生前診断には赤ちゃんの予期せぬ問題が見つかった場合の心理的負担が大きいこと、命の選択に迫られることなど、お母さん一人で抱えるにはあまりにも問題が大きすぎます。また、お腹の中の赤ちゃんは2人で作った大切な命です。必ず2人で真剣に考え、お互いを尊重し合った上で、出生前診断を受けていただきたいと思います。大切な決断に迫られたとき、お互いを支え合って答えを出していくことが最も重要だと私は思います。

 

代表的な出生前診断の種類

羊水染色体検査

お母さんのお腹に針をさして、羊水を採取し、赤ちゃんの染色体を調べる検査です。これによりダウン症などの染色体異常が分かります。当院では妊娠16週から検査を行うことができます(妊娠15週から行ってくれる病院もあります)。日帰りで検査ができ、お母さんの身体的負担は大きくありません。結果がでるまでは約23週間ほどかかります。

この検査は確定診断であり、赤ちゃんの染色体異常が出た場合はその病気でほぼ間違いないということになります。この検査はおよそ300人に1人の確率で流産したり、破水したりするリスクがあります。35歳の女性が染色体異常の子を妊娠する確率もおよそ300人に1人です。もし、35歳の女性が検査を受ける場合、お腹の中の赤ちゃんが染色体に異常を持っている確率と、健常な子を亡くすかもしれない確率が同じということになります。

 

母体血清マーカー(クアトロテスト)

羊水検査よりも安全な検査をと考案されたのが母体血清マーカーです。お母さんの採血だけで手軽に受けることができます。妊娠15週から受けられ、およそ2週間ほどで結果が分かります。この検査は染色体異常の中のダウン症、18トリソミー、神経管閉鎖障害(二分脊椎)のリスクを推定する検査です。主にダウン症を心配される方が羊水検査を受けるかどうかを決めるための情報を得る目的で行います

この検査を行うことによって高齢出産であっても、ダウン症の可能性が低いことがわかれば、羊水検査をしないことを選択することができますし、若い妊婦さんがこの検査を受けた結果、リスクが高い場合には羊水検査を受けるという選択もできます。つまり、この検査は正確な診断ではなく、分かるのはあくまでも確率ですので、結果次第で羊水検査を受けるかどうかを判断する為の一つの情報となります。注意すべきは確定診断でなく、確率が低ければ必ず大丈夫というものではありません。

 

超音波検査(当院では妊娠25週頃)

方法は妊婦健診時にやっている超音波検査と変わりません。ただ、前述したように、普段の妊婦健診ではしっかりと赤ちゃんを診ているわけではありませんので、出生前診断として行う超音波検査は時間をかけて細かく赤ちゃんを観察し、形態的な異常や胎盤・臍帯(へその緒)の異常を確認します。形を見る検査ですので、機能的なこと(目が見えるか、耳が聞こえるかなど)はわかりません。また、見える範囲には限界があり、全ての病気が確認できるわけではありません。

 

新型出生前診断(NIPT

妊娠の早い時期(妊娠10週~)にお母さんの血液を調べるだけで、母体血清マーカーよりも高い精度でお腹の中の赤ちゃんに染色体異常(ダウン症、18トリソミー、13トリソミー)がないかどうか調べることができます。ただし、陰性の場合でも100%問題ないわけではありません。もし陽性であった場合も、確定診断のためには羊水検査を受ける必要があります。

日本では新型出生前診断は2013年に始まったばかりで、現在、実施施設を専門医のいる病院に限って慎重に行われている検査です。将来的には、より一般的な検査になる可能性はありますが、現在は誰もが受けられる検査ではありません。また、認可を受けていない施設で行われているケースもあり、注意が必要です。

 

最後に

出生前診断については全ての方が知っておくべき知識であるとWHOも推奨しています。妊娠が分かってから検査を行うまでの時間はあまり多くあるとはいえません。出生前診断はある意味、時間との闘いです。妊娠10週~15週頃までに夫婦で十分話し合ってから出生前診断をお受けになってもらう必要がありますが、妊娠初期になかなかそこまでの知識を得たり、考えが及ぶのは困難です。当院の出生前診断についての院長クラスを活用していただければ幸いです。