妊娠中に気をつけたい感染症シリーズ⑦:単純ヘルペスウィルス 院長コラム#035

2024.04.22 院長コラム

 院長の吉冨です。今回は妊娠中に気をつけたい感染症シリーズ第7回目、単純ヘルペスウィルスについてです。妊婦さんは分娩時に特に注意が必要な感染症です。

 

単純ヘルペスウィルス

 

単純ヘルペスウィルスとは

 ヘルペスは体調が優れないときに唇にできたり外性器にできたりし、できるたびにうんざりされている方も多くいるのではないでしょうか?単純ヘルペスウィルスは感染力が非常に強く、病変がある部位に触れることで感染します(接触感染)。症状としては、脳炎など重症化することはあるものの、ほとんどが皮膚、唇とその周囲、眼、性器などに痛みのある小さな水疱や潰瘍が繰り返し発生します。最初の感染時には局所の強い痛みが出現し、発熱と全身のだるさも生じることがあります。単純ヘルペスウィルスを完治させる薬はなく、抗ウィルス薬は症状を緩和し、症状の持続期間を少し短縮させるために使用します。

 最初に単純ヘルペスウィルスに感染した後、体内で不活性化(休眠または潜伏)状態になります。その後、二度と症状が現れない場合もあれば何度も再活性化し症状を繰り返すことがあります。再活性化の誘因としては、体調不良や寝不足などからの免疫力の低下、月経、精神的ストレス、日光や物理的外傷などがありますが、不明な場合もよくあります。

 

妊娠中のヘルペスについて

 妊娠中のヘルペス発症で問題となるのは、赤ちゃんへの感染です。新生児ヘルペスと言い、発熱や局所に水疱ができるだけの軽症のものもありますが、脳炎や髄膜炎を起こしたり、全身にウィルスが感染して死に至ることもあります。感染経路として胎内感染も報告されていますが、多くは産道感染によるものです。そのため、妊娠後期は特に性器にできるヘルペスには注意が必要となります。妊娠中に初めて性器ヘルペスを発症した場合の産道感染率は3060%、再活性型では数%程度と報告されています。再活性型でどうして感染率が低くなるかというと、母体から排出されるウィルス量が少なく排泄期間も短く、母親由来の抗体が赤ちゃんに移行するため抵抗力がつくからだと考えられています。分娩が初感染発症から1ヶ月以内であれば、赤ちゃんは母親由来の抗体がまだ十分に行きわたっていないことから帝王切開を選択することが多いです。再活性型の場合は発症から1週間以上経過し、かつ、病変が消失している場合には帝王切開での分娩を回避できる可能性があります。また、水平感染にも注意が必要です。おっぱいの周囲にヘルペスができた場合は授乳を制限しなければなりませんし、唇やその他の部位に病変がある場合は厳格な手洗いやアルコール消毒を徹底する必要があります。

 

以上、簡単に産婦人科医からの視点で単純ヘルペスウィルスについて解説してみました。

単純ヘルペスウィルスに関して、ご心配やご質問などがある場合は医師にお尋ねください。