不育症(反復流産・習慣流産)について 院長コラム#030

2023.06.12 院長コラム

 院長の吉冨です。今回は不育症(反復流産・習慣流産)について少し詳しく私見を交えて解説していこうと思います。

流産は頻度が高く、多くの方が経験されているかと思います。喪失感が強く、とても悲しい出来事で、自分のせいではないかと責任を感じる方もいるかと思います。

知識を得ることで不要な不安や不必要な検査・治療を行わないためにも情報を発信していきたいと思います。

  1. 反復流産・習慣流産とは
  2. 原因
  3. 検査
  4. 治療
  5. 低用量アスピリン療法について

 

反復流産・習慣流産とは

 反復流産とは原因の有無にかかわらず流産が連続で2回繰り返された場合を言います。

また、習慣流産とは連続で3回以上の流産を繰り返した場合を指します。反復流産の頻度はおよそ25%、習慣流産は1%程度と言われています。

 

原因

 流産の原因として最も多いのは、赤ちゃんの染色体異常で自然流産の5070%を占めると言われており、反復流産についても赤ちゃんの染色体異常が50%を占めると言われています。

赤ちゃんの染色体異常は両親のどちらか一方に染色体の構造的異常が存在することによって引き起こされることはありますが、多くの場合は両親の染色体に異常はなく、卵子の加齢により染色体異常の発生頻度が上昇します。

つまり、流産の危険因子としてもっとも重要なものは女性の年齢と言うことになります。

20歳代での流産率はおよそ10%程度ですが、40歳代では40%以上となります。

 その他、不育症の原因として、抗リン脂質抗体症候群や子宮奇形、糖尿病、甲状腺機能異常、高プロラクチン血症などがあげられます。

また、自己抗体陽性者の流産率が高いとも言われていますが、実は原因が特定できない事例は50%以上にものぼると言われています。

 

検査

 上記原因から考えると、流産してしまった赤ちゃんの一部を染色体検査をする事によって原因が特定できる可能性は高くなると思いますが、あまり一般的ではありません。

その検査にどれだけの意味があるのかは考えなければなりません。

検査を行ったことで次の妊娠につながるのであれば検査の意義はありますが、検査をしたものの次に生かせないのであれば検査を行う意義は少ないようにも感じます。

流産してしまった赤ちゃんの染色体検査で異常が見つかった場合、その異常の原因が両親のどちらかにある可能性もあります。

両親の染色体検査でそれらを明らかにすることはできますが、その結果によっては夫婦関係を悪化させる可能性もあり、染色体検査は慎重にかつ、十分な遺伝カウンセリングを行ってから納得の上で行うことが望ましいと考えます。

 その他、抗リン脂質抗体症候群を筆頭に原因から考えた検査を行うことは可能ですが、先にも述べたように、検査を行っても原因が特定できない事例は50%以上にものぼり、検査を行ったからと言って、必ずしも原因が特定される訳ではありません。

 

治療

 原因が特定できない不育症の確立された治療方法はありませんが、無治療でも過去2回流産した場合では80%、3回では70%、4回では60%、5回では50%が次回の妊娠継続が可能であると言われています。

また、原因が特定できない不育症患者において、アスピリン療法を筆頭とした様々な治療の有効性はおおむね否定的であるという認識が一般的です。

 原因が特定された不育症でも治療方法があるものと、ないものがあります。

例えば、抗リン脂質抗体症候群は無治療である場合の流産率は90%程であると言われていますが、確立された治療方法があります。

低用量アスピリンと未分画ヘパリンの併用療法のみその有効性が確立しています。

しかし、低用量アスピリン単剤の治療法などその他の治療的意義は確立されていません。

一方、潜在性甲状腺機能低下症の場合、レボチロキシン(チラーヂンR)による治療介入を行っても生児獲得率には関連性がないと報告されており、不育症としての治療としては否定的で確立された治療法は示されていないのが現状です。

また、両親の染色体異常が見つかった場合、それそのものを治療することはできませんが、着床前診断を行うことによって流産率を低下させることができるとされています。

 

低用量アスピリン療法について

 不育症に対してもっとも“なんとなく”行われている治療であると認識しています。

この治療が広く行われている理由としては簡便であり、無難であるからだと思います。

低用量アスピリン療法がエビデンスをもって効果があると証明された不育症の原因となる疾患はありません。

抗リン脂質抗体症候群は先にも述べたように低用量アスピリンと未分画ヘパリンの併用療法のみが有効性を示されていますし、凝固因子の異常を指摘されている患者さんの流産への因果関係や低用量アスピリン療法の意義は確立されていません。

 また、低用量アスピリン内服に関しては副作用、デメリットの面からいくつか気をつけなければいけないことは知っておかなければいけません。

まず、低用量アスピリンを服薬すると血液が固まりにくくなります。

この作用が不育症に対するそもそもの治療根拠ですので当然と言えば当然です。

ただ、血液が固まりにくくなるということは外科的な処置が困難となったり、麻酔方法が限られてしまうという点がとても危ないことであると認識しなければなりません。

具体的な例を挙げてみますと、予定日よりもかなり早い時期に破水をしてしまった場合、経腟分娩を行うにしても出産時には出血をしますので血液が固まりにくいことは困ります。

そればかりか、もしその時逆子であれば帝王切開を行わなければなりません。

低用量アスピリンを内服していると背中からの半身麻酔(脊椎麻酔や硬膜外麻酔)は脊髄周辺での出血の危険性を伴うため、全身麻酔をせざるを得なく、全身麻酔を行うこともお母さんにとっても赤ちゃんにとってもリスクが高くなるため、とても麻酔を行うだけでも大変です。

さらに帝王切開そのものも当然出血をするため、止血が困難となりやすく危険を伴います。

当然、妊娠中の事故やけが、虫垂炎などの手術が必要となった場合も同様に困ることとなります。

その他の問題として、お腹の中の赤ちゃんの動脈管早期閉鎖と言う問題が起こり得るとされています。

動脈管とはお腹の中にいるときはなくてはならない血管で、生後まもなくすると自然に閉鎖します。この動脈管がお腹の中で閉鎖してしまうと最悪は赤ちゃんの死亡につながってしまいます。

そのため、添付文書にも妊娠28週以降の妊婦への使用は禁忌となっています。

 他院で不妊治療や不育症治療を行われ、その後当院に妊娠管理、分娩管理目的で転院となる方は数多くいらっしゃいますが、この低用量アスピリン療法を継続した状態で来院される方が未だに多く、困ることが多々あります。意味があるかわからない治療を行われていることそのものに問題があることはもちろんのこと、その治療を行っているから今回の妊娠で流産せずに今に至ると信じて疑わない方がいらっしゃり、服薬の中止を求めても指示に従ってもらえない事があります。低用量アスピリンを服薬することに対する副作用やデメリットについて、充分な説明もされていないまま、ただ“なんとなく”治療をされていることに危機感を持つことは大事ですし、きちんとした知識を持って、ご本人がその治療選択をすることが大事だと思います。

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以上、不育症(反復流産・習慣流産)について書いてみました。皆様の参考になれば幸いです。

低用量アスピリン療法を行われている患者様で当院に転院となった場合は以後の使用方法や服薬中止についてご相談させていただきますので何卒よろしくお願いいたします。

また、染色体関連のご相談は遺伝カウンセリングでお受けいたします。